最高裁判所第三小法廷 昭和43年(あ)2595号 判決 1969年4月01日
本店所在地
東京都台東区上野桜木二丁目二四番二三号
株式会社 戸村商事(旧商号 有限会社戸村商事)
(右各代表者代表取締役戸村英雄)
本籍
東京都台東区上野桜木二丁目四七番地
住居
同区上野桜木二丁目二四番二三号
右会社代表取締役
戸村英雄
大正
七年一月一四日 生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和四三年一一月一二日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らからそれぞれ上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人江口弘一の上告趣意第一点は、違憲というが、同一行為について、法人税、重加算税、廷滞税のほか刑罰を科しても、憲法三九条後段に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二九年(オ)第二三六号同三三年四月三〇日大法廷判決、民集一二巻六号九三八頁。昭和三五年(あ)第一三五二号同三六年七月六日第一小法廷判決、刑集一五巻七号一〇五四頁参照)の趣旨に徴し明らかであるから、所論は理由がない。
同第二点は、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)
昭和四三年(あ)第二五九五号
被告人 株式会社 戸村商事
右代表取締役 戸村英雄
外一名
弁護人江口弘一の上告趣意(昭和四四年一月二三日付)
第一点 原判決は憲法の違反があり、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであり、原判決は破棄されなければならない。
(理由)
原判決は被告人等に刑罰を科した点に於いて憲法第三九条後段に違反し破棄を免れない。
何となれば被告人等はすでに税務当局の御命令に服し税務当局が一方的に計算した所得金額に応ずる税額及び重加算税廷滞利子等を直ちに支払つている。これは、名目の如何に問わず実質上被告人等に対する刑罰に外ならない。手痛い刑罰たる何千万円もの重税を科しながら同じ国家が今度は裁判所という別の肩書で罰金や懲役という別の名目の刑罰を科するということは、いかに法の形式理論を操つても二重処分そのものであることを否定できない。
第二点 原判決の量定が甚しく不当であつて、これを破棄しなければ著しく正義に反することを認める事由がある。
(理由)
第一点において既に主張した通り、被告会社はすでに何千万円もの莫大な過怠税重加算税を科せられ実質上死刑に処せられたと全く同一である。会社の存在そのものを否定する様な過大な税額を科せられながら被告会社としては若干の帳薄の不正等があつた弱味から税務当局から極端にマークされる不利を恐れ泣き泣き命令通り納付をしたのである。真実は銀行という金融機関にも頭を下げなければ商売ができない被告人等としては銀行側の裏預金設定等の要求に拒むことができなかつたのであつて決して悪意があつたわけではないし又原判決の認めたような過大な逋脱があつたのではない。
しかるに原判決は被告会社に更に罰金壱千万円を、又被告戸村には懲役刑を科したがこれは余りに重い刑である。
以上憲法違反、並びに量刑不当の二点につき、貴裁判所におかれては原審記録並に証拠御精査の上慎重御審議相成り原判決破棄の御裁判賜りたく御明鑑に訴へる次第であります。
以上